我否む、故に魔女あり
歴史的な戦乱が始まる時――――
否定の魔女はその姿を現す。
はじめには、大国の切り札として
魔女はその力を持って世界中に破壊を降り注ぎ――――
封印される。
しばしの眠りの後―――否定の魔女は再び現れる―――
…戦乱の世界に現れる。
否定の魔女はその姿を現す。
はじめには、大国の切り札として
魔女はその力を持って世界中に破壊を降り注ぎ――――
封印される。
しばしの眠りの後―――否定の魔女は再び現れる―――
…戦乱の世界に現れる。
「否定の魔女が現れた…か。」
サザンクロスタウンの知識が集う図書館で、豪鉄は様々な書籍を調べていた。
この図書館には様々な世界の文献や読み物が保管されており、「読みすぎ注意」の張り紙が各所に点在する。
原因はわかっている。本を読むことに夢中になって倒れる者が後を絶たないからだ。
結果、ここの周りには様々な施設が併設され、町の発展とともに建造物としての境が無くなってしまった。
「これは戦乱の予兆だろうな。セントラルの連中は気づいてるかわからないけど。」
サザンクロスタウンは街道に囲まれた都市である。地理的重要性は高く、そのため権力者の欲望が集中してたびたび戦乱が起こった。そのため、住民はここを「シオンの地」「試練に選ばれし者の地」などと呼ぶ。歴史的には動乱のほうが長かった土地柄故、これしきの事で驚きはしない。
そこまで考えたところで、眼を輝かせて自分を見つけてきた来訪者の存在を知ることになる。
「豪鉄はやっぱりここにいたね。でもいつもの仕事はどうしたの?」
「戦乱の兆しがはっきりと見えてるんだ。だから戒厳令敷いて空襲警報まで発布した。その間に調べたいものがあってな。」
エダムはまだ学生の身であるが、自分から進んで豪鉄に師事している。最も、毒男の気がある豪鉄にとってはちと扱いにくい相手ではあるが。
ただし、彼自身の才能ははっきりと認めている。だからこそそう簡単に手放しはしない。
「端的に言おう。否定の魔女トレヴィーニがセントラルに現れた。エダムはこれをどう思う?」
今頃、セントラルでは死闘が始まっていることだろう。そして、その影響がいつ自分たちのいるサザンクロスタウンに迫るかははっきりいってわからない。あるのは「来る」という事実の予測だけ。
「また野心を持つ帝国が現れたのでしょうか?恐らくその帝国はすでに滅びてると思いますけど。」
エダムの回答はこの街に住む者の否定の魔女についての見識を端的に表していた。つまり、それは血気にはやる帝国が最後に侵す誤算であり、自らの死亡フラグであるということだ。しかし、豪鉄の回答はちょっと異色なものであった。
「確かにそう考えるのが普通だが、それだとトレヴィーニはどこかで軍神として祀られていてもおかしくないはずだ。もちろん、それは二つの方向性がある。加護を願うか祟りを恐れるかだ。もし本当にあったら両方同時にやってそうだけど。」
二人はその様子を想像して苦笑した。強い奴にしか興味がないと言われているトレヴィーニが自分たちのような弱者に拝まれて頭を抱えている光景が目に浮かぶ。恐らくそんなことが長期間にわたって続くと魔女は我慢の限界に達して戦乱を引き起こすだろう。それもとびっきり大きな奴を。魔女は自由でなければならない。
「ところが、実際に否定の魔女を祀っている場所は存在しない。もっとも、そんな場所はすぐに破壊されると思うけど。祭神御自らの手によって迅速にね。」
「まぁ、否定されることは間違いないでしょう。ってことは、トレヴィーニの本質はやはり『否定』でしょうか?」
当たり前すぎる質問。しかし、何気ないことから定理や考え方を制作することは重要である。
「そう。我々は何らかの不条理を感じると、それを心理的に『否定』する。これを否認と言う。トレヴィーニはその『否認』をあらゆることに用いることができる。そして、逆に容認することもできる。」
「引力と斥力の関係ですね。磁石や電気でも似たような現象が見られます。」
正と負、光と闇、男と女、善と悪――――これらは同時に存在し、どちらかを単離することは事実上不可能である。
「否認を極め容認すらできるとあらば、それは強大な力であることは間違いない。しかし、その力故にそれ以外のすべてを失った。代償はあまりにも大きい。覇者は孤独による代価を支払わねばならないのだ。」
『争いの勝者は馬鹿を見、敗者は安息を見る』とはサザンクロスタウンの住民なら必ず知っておかなければならない言葉である。太古の昔、勝者による一方的な虐殺が行われていた時代から続く変わりない事実。時代が変わり、社会の成立や理性の目覚めが虐げられていた者たちに光を与えてからはさらに真実味が増した。
もちろん、弱者の中でも勝者と敗者が分かれたが、例外は存在しなかった。なぜなら、これは自らが信じる唯一神への反逆により虐げられた民族と、『神々の狂宴』とも呼ばれる多種多様な自然災害に苦しめられた民族の共通認識。勝利と敗北が切り離せないことを遠まわしに物語る言葉である。
「…否定の魔女は戦いに取り込まれてしまった。皮肉なことに、あの花嫁衣装は婚礼の証そのものなんだよ。要するに理性の力が使えないんだ。」
エダムは少し考えた後、豪鉄が何を言いたいのかを察した。誇り高き軍事大国や世界宗教とも対等にやり合える彼らが、唯一「相手にしたくない」とさじを投げる事柄だ。
「理性が通じない相手は動乱を繰り返す。そして阿鼻叫喚の声が惑星をも覆い尽くす…でしたっけ?」
「それは童話の話。とはいえ間違ってはいないからさらに性質悪いんだけどな。一言で言うなら、『哀れな生き様』かな。」
静粛な図書室に、沈黙が訪れる。「戒厳令」とは豪鉄の振るう伝家の宝刀であり、少なくとも航空機は容赦なく命令に従うことを強要される。もちろん、それは航空機が1機も失われないようにするためである。
これは人々も同じで、戦争や自然災害などが起こった場合、自らの身を守るために戒厳令に従い体を休める。この街は今、全体が冬眠しているような状態なのだ。
豪鉄とエダムは、否定の魔女に追悼の祈りを奉げていた。それは、疲れを知らない戦士のように振舞うしかない魔女に対する哀悼の祈りである。
「否定の魔女は、どうしたら休めるんですか?」
「それは、この世の力に興味を失ったときだよ。」
最後の言葉は、あまりにも切実だった。耳が垂れた白兎のような否定の魔女は、あまりにも可哀想な存在だったのだ。
二人は図書館から外に出た。エダムはそのまま家路につき、豪鉄も居るべき場所―――つまり街を見渡す管制塔に戻った。
本来なら魔女の興味が冷めるまでこのままお休みなのだが、異世界の愚か者はそれを許してくれないらしい。
「話し合おうったって、否定の魔女が来るかもしれないってときに来てもらっては困るのだよ。」
灰色の空を飛んでいる正体不明な飛行物体の数々。グレイが乗ってそうな典型的UFO、アークバード、アイガイオン、そして巡航ミサイル等々…
それはまさに異業種空中艦隊。ここはサイレントヒルじゃないぞと思わず舌を巻く豪鉄であった。
「流石に今回ばかりは相手にできないね… …メビウス1、交戦を許可する。目標はサザンクロスタウン上空の敵性航空機。」
豪鉄は対応を否定した。それに呼応するようにトレヴィーニが冬眠したサザンクロスタウン上空に現れた。もちろん、両者とも相手の反応なぞ知るわけがない。
「まったく、この怠け者どもが…。まぁいい、この妾と戦いたいというのなら死ぬ気でかかってきなさい。」
そう豪語するトレヴィーニに、アイガイオンは長距離攻撃用の散弾巡航ミサイル『ニンバス』の集中砲撃を浴びせるのだった。
サザンクロスタウンの知識が集う図書館で、豪鉄は様々な書籍を調べていた。
この図書館には様々な世界の文献や読み物が保管されており、「読みすぎ注意」の張り紙が各所に点在する。
原因はわかっている。本を読むことに夢中になって倒れる者が後を絶たないからだ。
結果、ここの周りには様々な施設が併設され、町の発展とともに建造物としての境が無くなってしまった。
「これは戦乱の予兆だろうな。セントラルの連中は気づいてるかわからないけど。」
サザンクロスタウンは街道に囲まれた都市である。地理的重要性は高く、そのため権力者の欲望が集中してたびたび戦乱が起こった。そのため、住民はここを「シオンの地」「試練に選ばれし者の地」などと呼ぶ。歴史的には動乱のほうが長かった土地柄故、これしきの事で驚きはしない。
そこまで考えたところで、眼を輝かせて自分を見つけてきた来訪者の存在を知ることになる。
「豪鉄はやっぱりここにいたね。でもいつもの仕事はどうしたの?」
「戦乱の兆しがはっきりと見えてるんだ。だから戒厳令敷いて空襲警報まで発布した。その間に調べたいものがあってな。」
エダムはまだ学生の身であるが、自分から進んで豪鉄に師事している。最も、毒男の気がある豪鉄にとってはちと扱いにくい相手ではあるが。
ただし、彼自身の才能ははっきりと認めている。だからこそそう簡単に手放しはしない。
「端的に言おう。否定の魔女トレヴィーニがセントラルに現れた。エダムはこれをどう思う?」
今頃、セントラルでは死闘が始まっていることだろう。そして、その影響がいつ自分たちのいるサザンクロスタウンに迫るかははっきりいってわからない。あるのは「来る」という事実の予測だけ。
「また野心を持つ帝国が現れたのでしょうか?恐らくその帝国はすでに滅びてると思いますけど。」
エダムの回答はこの街に住む者の否定の魔女についての見識を端的に表していた。つまり、それは血気にはやる帝国が最後に侵す誤算であり、自らの死亡フラグであるということだ。しかし、豪鉄の回答はちょっと異色なものであった。
「確かにそう考えるのが普通だが、それだとトレヴィーニはどこかで軍神として祀られていてもおかしくないはずだ。もちろん、それは二つの方向性がある。加護を願うか祟りを恐れるかだ。もし本当にあったら両方同時にやってそうだけど。」
二人はその様子を想像して苦笑した。強い奴にしか興味がないと言われているトレヴィーニが自分たちのような弱者に拝まれて頭を抱えている光景が目に浮かぶ。恐らくそんなことが長期間にわたって続くと魔女は我慢の限界に達して戦乱を引き起こすだろう。それもとびっきり大きな奴を。魔女は自由でなければならない。
「ところが、実際に否定の魔女を祀っている場所は存在しない。もっとも、そんな場所はすぐに破壊されると思うけど。祭神御自らの手によって迅速にね。」
「まぁ、否定されることは間違いないでしょう。ってことは、トレヴィーニの本質はやはり『否定』でしょうか?」
当たり前すぎる質問。しかし、何気ないことから定理や考え方を制作することは重要である。
「そう。我々は何らかの不条理を感じると、それを心理的に『否定』する。これを否認と言う。トレヴィーニはその『否認』をあらゆることに用いることができる。そして、逆に容認することもできる。」
「引力と斥力の関係ですね。磁石や電気でも似たような現象が見られます。」
正と負、光と闇、男と女、善と悪――――これらは同時に存在し、どちらかを単離することは事実上不可能である。
「否認を極め容認すらできるとあらば、それは強大な力であることは間違いない。しかし、その力故にそれ以外のすべてを失った。代償はあまりにも大きい。覇者は孤独による代価を支払わねばならないのだ。」
『争いの勝者は馬鹿を見、敗者は安息を見る』とはサザンクロスタウンの住民なら必ず知っておかなければならない言葉である。太古の昔、勝者による一方的な虐殺が行われていた時代から続く変わりない事実。時代が変わり、社会の成立や理性の目覚めが虐げられていた者たちに光を与えてからはさらに真実味が増した。
もちろん、弱者の中でも勝者と敗者が分かれたが、例外は存在しなかった。なぜなら、これは自らが信じる唯一神への反逆により虐げられた民族と、『神々の狂宴』とも呼ばれる多種多様な自然災害に苦しめられた民族の共通認識。勝利と敗北が切り離せないことを遠まわしに物語る言葉である。
「…否定の魔女は戦いに取り込まれてしまった。皮肉なことに、あの花嫁衣装は婚礼の証そのものなんだよ。要するに理性の力が使えないんだ。」
エダムは少し考えた後、豪鉄が何を言いたいのかを察した。誇り高き軍事大国や世界宗教とも対等にやり合える彼らが、唯一「相手にしたくない」とさじを投げる事柄だ。
「理性が通じない相手は動乱を繰り返す。そして阿鼻叫喚の声が惑星をも覆い尽くす…でしたっけ?」
「それは童話の話。とはいえ間違ってはいないからさらに性質悪いんだけどな。一言で言うなら、『哀れな生き様』かな。」
静粛な図書室に、沈黙が訪れる。「戒厳令」とは豪鉄の振るう伝家の宝刀であり、少なくとも航空機は容赦なく命令に従うことを強要される。もちろん、それは航空機が1機も失われないようにするためである。
これは人々も同じで、戦争や自然災害などが起こった場合、自らの身を守るために戒厳令に従い体を休める。この街は今、全体が冬眠しているような状態なのだ。
豪鉄とエダムは、否定の魔女に追悼の祈りを奉げていた。それは、疲れを知らない戦士のように振舞うしかない魔女に対する哀悼の祈りである。
「否定の魔女は、どうしたら休めるんですか?」
「それは、この世の力に興味を失ったときだよ。」
最後の言葉は、あまりにも切実だった。耳が垂れた白兎のような否定の魔女は、あまりにも可哀想な存在だったのだ。
二人は図書館から外に出た。エダムはそのまま家路につき、豪鉄も居るべき場所―――つまり街を見渡す管制塔に戻った。
本来なら魔女の興味が冷めるまでこのままお休みなのだが、異世界の愚か者はそれを許してくれないらしい。
「話し合おうったって、否定の魔女が来るかもしれないってときに来てもらっては困るのだよ。」
灰色の空を飛んでいる正体不明な飛行物体の数々。グレイが乗ってそうな典型的UFO、アークバード、アイガイオン、そして巡航ミサイル等々…
それはまさに異業種空中艦隊。ここはサイレントヒルじゃないぞと思わず舌を巻く豪鉄であった。
「流石に今回ばかりは相手にできないね… …メビウス1、交戦を許可する。目標はサザンクロスタウン上空の敵性航空機。」
豪鉄は対応を否定した。それに呼応するようにトレヴィーニが冬眠したサザンクロスタウン上空に現れた。もちろん、両者とも相手の反応なぞ知るわけがない。
「まったく、この怠け者どもが…。まぁいい、この妾と戦いたいというのなら死ぬ気でかかってきなさい。」
そう豪語するトレヴィーニに、アイガイオンは長距離攻撃用の散弾巡航ミサイル『ニンバス』の集中砲撃を浴びせるのだった。
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