消えたはずの火種
否定の魔女は、自分の存在について模索し始めた。
今までずっと否定してきたが、ここにきてそれではいけないと感じたのだろうか。
その真相は、誰にもわからない。
今までずっと否定してきたが、ここにきてそれではいけないと感じたのだろうか。
その真相は、誰にもわからない。
「自分の存在を考えさせられる呪文…これか。」
トレヴィーニは未だ冬眠中の街中に入り、街の中心部にある巨大な図書館に入った。図らずとも豪鉄と同じルートをたどったわけだが、最終目的地は微妙に違う。
否定の力で施錠を解きながら、奥深くに封印された禁じられし書物の前にまで歩を進めた。だが…
「う〜ん、これなんて書いてあるんだろう?」
額にある魔石の源泉から疑問が漏れた。『書けるけど読めず、読めるけど書けない』というタイプの封印がかかっている文字があり、そこから先に進めない。
その文字の前後で物語の流れが変わっているので、どうもそこの単語はこの書物の根幹をなす部分のようだ。
トレヴィーニは確信した。その後の行動は迅速だった。その封印を否定し、解読結果を高らかに読み上げる。
「 ユ ナ レ ミ ズ キ リ 」
刹那、魔女の足もとから黒い触手が現れ、掴みかかってきた。
瞬時に否定とナギッで回避するも、その追撃はやむ気配を見せない。これが自分の存在を考えさせられる呪文の効果なのか。だとしたら――――
トレヴィーニの瞳が輝いた。魔石もそれに同調し、戦闘開始準備を整えていた。
避けられないなら、特攻して内部を破壊しつくし、核を血祭りにあげるか外界との境に風穴を開けて殺るのみ。
考えたらすぐ行動。黒い触手の方向に向けて火炎特攻を敢行し、金色の炎となって戦場へと突入していった。
到着した場所は、妙な浮遊感がある暗黒の異次元空間。
天と地との境は分からないが、見上げれば一定周期で周回する謎の光源が見え、そこが『上』であることがわかる。気温は生存最適温度。熱くもなく寒くもない、気持ち悪いくらいに快適な温度である。
そして、周囲には誰の気配も感じない。代わりに妙な浮遊感があたりを支配する。世にも不気味な閉鎖空間だ。
「つまらん。こんな場所からさっさと出よう。」
トレヴィーニは風を呼んだ。が、かえって妙な浮遊感が増幅されてしまった。もちろん、こんなものは否定すればどうにかなる。
唯一の手がかりと言えば上にある光だ。そこまで行って光源の正体を突き止めれば何か分かるかもしれない。自ら作った上昇気流に乗ってそこまで飛び上がる。そして、光の一つに触れてみた。
「これは…魂、か?だとすれば奴の仕業ではないな…」
不揃の魔女は生命あるものを操ることはできない。魂を弄ぶなど、到底無理な相談だ。
ならば白化ダークマターか。否、もしそうなら会話ができるはずだ。この魂は何も語ることはない。
だとすれば可能性は一つだけ。この光は命ある者から抜き取られた魂。そして、ここの正体は――――
「命ある者から魂を抜き、その魂を用いて生命を賄う場所、か。何ともえげつない処理施設だ。」
トレヴィーニはここで理解した。「自分の存在を考えさせられる」とは「自分から魂が抜ける」という意味だったのだ。
そして、自らの存在を改めて顧みることで、その仮説が正しいことが証明された。
「なるほど、確かに妾や魔石の魂が若干抜かれつつあるな。」
魔女は魂の光を羽織っていた。それは抜かれつつある自らの魂。異常事態を察した魔石が魔女に報告する。
「どどど、どうしましょうトレヴィーニさん!このままじゃ魂抜かれちゃいますよ!」
ならば外界との穴を穿ちこの空間を破壊するのみ。魔女は己の腋から次元の顎(あぎと)を発生させ、芳香と共にこの異次元空間を引き裂いて脱出した。
脱出して出てきた場所は、歪んだ0と1がとあるところに散見される深緑の世界。恐らく電脳世界だろうが、0と1の歪み具合から察するに、既に用済みとなり自然崩壊を待っている場所なのだろう。
そこには、狼の耳と狼の尻尾を持つカービィが一人、暗黒に揺らめく炎を背負い佇んでいた。モザイク卿とは違い、炎自体が肉体を形作っているわけではない。
「ほぉ、ユナレミズキリの消化器官から脱出できるたぁただもんじゃねぇな。『生贄』に化けた調整者にしちゃ種族的に問題があるだろうし、なによりその風貌が既にありえねぇ。」
彼はそんな台詞を吐き、背負う炎を燃え上がらせる。その正体は「狐火」であろう。その名を呼ぶものを喰らう能力を持つ邪悪なる存在だ。
「俺の通り名はSnaped Sword(折れた剣)だ。本名は抹消されたんだが、今は『俺と運命を共にした人間』の名を借りてミナキと名乗らせてもらう。」
そう言うと、彼は足早に戦闘態勢に入る。得物は拳銃。発射まで若干の時間がかかるのを見越して、トレヴィーニは扇子の一撃を素早く叩き込んだ。しかし、ミナキは叩き込まれても怯まずに銃撃を敢行。弾こそ扇子の叩き返しで弾道をずらせたものの、魔女は攻撃時の感触を思い出して狼狽する。
「否定対象が3人存在するだと…『調整者』とやらもこの事態までは想定してなかったようだな。」
彼は3つの存在を背負っている。肉体を持つ『折れた剣』(カービィ)、名前を冠するミナキ(人間)、そして力の源であるユナレミズキリ(狐火)だ。存在を否定してこの相手を抹消するには、この3主体を全て否定しなければならない。が、自分の能力でそれができるかどうかも疑問である。この世界において存在を否定するには、『調整者』とやらの能力を行使し『存在の鎖』でできた核を破壊する必要があるというのはサザンクロスタウンで読んだ小説の内容ですでに分かっているが、それは人間の業である。いくら否定の魔女とはいえ、このタイプの否定は経験がない。
いや、そもそもこの3人はいずれも『調整者』によって存在を抹消されているわけであり、そう簡単に消し去ることはもはや不可能なのだ。
「オラオラ、何を小賢しいこと考えてやがるんだ!」
銃撃が黒く燃えている。恐らくは狐火を纏った銃弾だろう。ここは接近して潰すのみ――――
「花嫁が火傷しに来るなんてらしくないなぁ!外見は最高なんだから性格をもうちょっとなぁ…ぐへへへえhっえへっへへへへえっへへhくぁwせdrftgyふじこlp」
下世話なお世辞を纏った炎がミナキから吹き出し、トレヴィーニに襲いかかる。炎に包まれた下品な野獣は、どうやらその本性を剥き出しにしたようだ。それはあまりにも汚らわしいものであった。
「下衆め、もはや許す気にもなれん。もはや甦れないようにしてやろう!」
魔女と魔石が共鳴した。その瞬間、深緑の世界に雪が降り出した。
「この滅びゆく空間に引導を下す。ここは野獣が巣食う白樺の森。廃止され氷漬けになった鉄路の痕跡。その名は糠平。ラグラントと同等の地形を持つ氷結の大地。」
壊れかけの電脳世界はあっけなく崩壊した。代わりに、一面が雪と氷に覆われた湖の上に降り立ったが、そこには石の感触があった。
「ここはタウシュベツなる橋。廃止した鉄路の墓標。そなたは流刑の身となり果てた。大人しくこの湖に葬られるがよい。」
魔女は独裁者の威厳を持ち、今度は雪を羽織っていた。今度は魂が抜かれているというわけではなく、単に大雪が降っているだけである。
「訳わかんねぇ御託を並べやがって…ますます気にいらねぇ。さっさと死んでもらうぜ!」
狐火の能力を完全開放して怒りを噴火させる。これでは近づくことすらままならない。なのでトレヴィーニは距離をとって氷の弾幕を放つ。接近戦では全く命中しないが、距離さえ取れればどうということはない。が、ミナキは狼と狐火の感覚で弾幕の薄い所を見つけた。それは魔女の目の前。そこに潜り込めば一方的に嬲ることが可能である。燃え盛る火炎を身にまとい、迷うことなくそこに突っ込み――――
「ヴァイ!」
波動を放つ大声で吹き飛ばされた。わざと弱点を作ったのはそこに相手をおびき寄せるためである。吹き飛ばされたミナキは氷の張った湖面に激突し、そのまま氷を溶かして水中に落ちた。一瞬にして湖水の冷気が彼を襲い、体温や力の源をことごとく冷やしてゆく。
「存在を消されて尚この世への未練を持つ者は、このようにされる。」
トレヴィーニはこう宣言し、剥き出しの湖面に冷気を吹き込んで再び凍らせた後、己の居るべき場所へと静かに帰っていった。
トレヴィーニは未だ冬眠中の街中に入り、街の中心部にある巨大な図書館に入った。図らずとも豪鉄と同じルートをたどったわけだが、最終目的地は微妙に違う。
否定の力で施錠を解きながら、奥深くに封印された禁じられし書物の前にまで歩を進めた。だが…
「う〜ん、これなんて書いてあるんだろう?」
額にある魔石の源泉から疑問が漏れた。『書けるけど読めず、読めるけど書けない』というタイプの封印がかかっている文字があり、そこから先に進めない。
その文字の前後で物語の流れが変わっているので、どうもそこの単語はこの書物の根幹をなす部分のようだ。
トレヴィーニは確信した。その後の行動は迅速だった。その封印を否定し、解読結果を高らかに読み上げる。
「 ユ ナ レ ミ ズ キ リ 」
刹那、魔女の足もとから黒い触手が現れ、掴みかかってきた。
瞬時に否定とナギッで回避するも、その追撃はやむ気配を見せない。これが自分の存在を考えさせられる呪文の効果なのか。だとしたら――――
トレヴィーニの瞳が輝いた。魔石もそれに同調し、戦闘開始準備を整えていた。
避けられないなら、特攻して内部を破壊しつくし、核を血祭りにあげるか外界との境に風穴を開けて殺るのみ。
考えたらすぐ行動。黒い触手の方向に向けて火炎特攻を敢行し、金色の炎となって戦場へと突入していった。
到着した場所は、妙な浮遊感がある暗黒の異次元空間。
天と地との境は分からないが、見上げれば一定周期で周回する謎の光源が見え、そこが『上』であることがわかる。気温は生存最適温度。熱くもなく寒くもない、気持ち悪いくらいに快適な温度である。
そして、周囲には誰の気配も感じない。代わりに妙な浮遊感があたりを支配する。世にも不気味な閉鎖空間だ。
「つまらん。こんな場所からさっさと出よう。」
トレヴィーニは風を呼んだ。が、かえって妙な浮遊感が増幅されてしまった。もちろん、こんなものは否定すればどうにかなる。
唯一の手がかりと言えば上にある光だ。そこまで行って光源の正体を突き止めれば何か分かるかもしれない。自ら作った上昇気流に乗ってそこまで飛び上がる。そして、光の一つに触れてみた。
「これは…魂、か?だとすれば奴の仕業ではないな…」
不揃の魔女は生命あるものを操ることはできない。魂を弄ぶなど、到底無理な相談だ。
ならば白化ダークマターか。否、もしそうなら会話ができるはずだ。この魂は何も語ることはない。
だとすれば可能性は一つだけ。この光は命ある者から抜き取られた魂。そして、ここの正体は――――
「命ある者から魂を抜き、その魂を用いて生命を賄う場所、か。何ともえげつない処理施設だ。」
トレヴィーニはここで理解した。「自分の存在を考えさせられる」とは「自分から魂が抜ける」という意味だったのだ。
そして、自らの存在を改めて顧みることで、その仮説が正しいことが証明された。
「なるほど、確かに妾や魔石の魂が若干抜かれつつあるな。」
魔女は魂の光を羽織っていた。それは抜かれつつある自らの魂。異常事態を察した魔石が魔女に報告する。
「どどど、どうしましょうトレヴィーニさん!このままじゃ魂抜かれちゃいますよ!」
ならば外界との穴を穿ちこの空間を破壊するのみ。魔女は己の腋から次元の顎(あぎと)を発生させ、芳香と共にこの異次元空間を引き裂いて脱出した。
脱出して出てきた場所は、歪んだ0と1がとあるところに散見される深緑の世界。恐らく電脳世界だろうが、0と1の歪み具合から察するに、既に用済みとなり自然崩壊を待っている場所なのだろう。
そこには、狼の耳と狼の尻尾を持つカービィが一人、暗黒に揺らめく炎を背負い佇んでいた。モザイク卿とは違い、炎自体が肉体を形作っているわけではない。
「ほぉ、ユナレミズキリの消化器官から脱出できるたぁただもんじゃねぇな。『生贄』に化けた調整者にしちゃ種族的に問題があるだろうし、なによりその風貌が既にありえねぇ。」
彼はそんな台詞を吐き、背負う炎を燃え上がらせる。その正体は「狐火」であろう。その名を呼ぶものを喰らう能力を持つ邪悪なる存在だ。
「俺の通り名はSnaped Sword(折れた剣)だ。本名は抹消されたんだが、今は『俺と運命を共にした人間』の名を借りてミナキと名乗らせてもらう。」
そう言うと、彼は足早に戦闘態勢に入る。得物は拳銃。発射まで若干の時間がかかるのを見越して、トレヴィーニは扇子の一撃を素早く叩き込んだ。しかし、ミナキは叩き込まれても怯まずに銃撃を敢行。弾こそ扇子の叩き返しで弾道をずらせたものの、魔女は攻撃時の感触を思い出して狼狽する。
「否定対象が3人存在するだと…『調整者』とやらもこの事態までは想定してなかったようだな。」
彼は3つの存在を背負っている。肉体を持つ『折れた剣』(カービィ)、名前を冠するミナキ(人間)、そして力の源であるユナレミズキリ(狐火)だ。存在を否定してこの相手を抹消するには、この3主体を全て否定しなければならない。が、自分の能力でそれができるかどうかも疑問である。この世界において存在を否定するには、『調整者』とやらの能力を行使し『存在の鎖』でできた核を破壊する必要があるというのはサザンクロスタウンで読んだ小説の内容ですでに分かっているが、それは人間の業である。いくら否定の魔女とはいえ、このタイプの否定は経験がない。
いや、そもそもこの3人はいずれも『調整者』によって存在を抹消されているわけであり、そう簡単に消し去ることはもはや不可能なのだ。
「オラオラ、何を小賢しいこと考えてやがるんだ!」
銃撃が黒く燃えている。恐らくは狐火を纏った銃弾だろう。ここは接近して潰すのみ――――
「花嫁が火傷しに来るなんてらしくないなぁ!外見は最高なんだから性格をもうちょっとなぁ…ぐへへへえhっえへっへへへへえっへへhくぁwせdrftgyふじこlp」
下世話なお世辞を纏った炎がミナキから吹き出し、トレヴィーニに襲いかかる。炎に包まれた下品な野獣は、どうやらその本性を剥き出しにしたようだ。それはあまりにも汚らわしいものであった。
「下衆め、もはや許す気にもなれん。もはや甦れないようにしてやろう!」
魔女と魔石が共鳴した。その瞬間、深緑の世界に雪が降り出した。
「この滅びゆく空間に引導を下す。ここは野獣が巣食う白樺の森。廃止され氷漬けになった鉄路の痕跡。その名は糠平。ラグラントと同等の地形を持つ氷結の大地。」
壊れかけの電脳世界はあっけなく崩壊した。代わりに、一面が雪と氷に覆われた湖の上に降り立ったが、そこには石の感触があった。
「ここはタウシュベツなる橋。廃止した鉄路の墓標。そなたは流刑の身となり果てた。大人しくこの湖に葬られるがよい。」
魔女は独裁者の威厳を持ち、今度は雪を羽織っていた。今度は魂が抜かれているというわけではなく、単に大雪が降っているだけである。
「訳わかんねぇ御託を並べやがって…ますます気にいらねぇ。さっさと死んでもらうぜ!」
狐火の能力を完全開放して怒りを噴火させる。これでは近づくことすらままならない。なのでトレヴィーニは距離をとって氷の弾幕を放つ。接近戦では全く命中しないが、距離さえ取れればどうということはない。が、ミナキは狼と狐火の感覚で弾幕の薄い所を見つけた。それは魔女の目の前。そこに潜り込めば一方的に嬲ることが可能である。燃え盛る火炎を身にまとい、迷うことなくそこに突っ込み――――
「ヴァイ!」
波動を放つ大声で吹き飛ばされた。わざと弱点を作ったのはそこに相手をおびき寄せるためである。吹き飛ばされたミナキは氷の張った湖面に激突し、そのまま氷を溶かして水中に落ちた。一瞬にして湖水の冷気が彼を襲い、体温や力の源をことごとく冷やしてゆく。
「存在を消されて尚この世への未練を持つ者は、このようにされる。」
トレヴィーニはこう宣言し、剥き出しの湖面に冷気を吹き込んで再び凍らせた後、己の居るべき場所へと静かに帰っていった。
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